#238 ヒメアノ~ル/本当の弱者とは。

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『ヒメアノ~ル』
himeanole
満足度:★★★★☆(4.5)
ジャンル:ドラマ(恋愛コメディ×サイコサスペンス)
時間:99分
監督:吉田恵輔
年度:2016年
製作:日本
配給:日活

ストーリー説明

普通の生活に焦燥感を抱くビル清掃会社のパートタイマー岡田(濱田岳)は、同僚からカフェの店員ユカ(佐津川愛美)との恋の橋渡し役を頼まれる。彼女が働くカフェへと足を運んだ岡田は、高校時代の同級生・森田(森田剛)と再会。ユカから森田につけ狙われ、ストーキングに悩まされていると相談された岡田は、森田がかつていじめられていたことを思い出し、不安になるが……。

引用:シネマトゥデイより

劇場鑑賞

新宿TOHOシネマズにて。

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○感想

吉田恵輔監督が描くダメ人間への愛が大好きです。

ばしゃ馬さんとビッグマウス』『麦子さんと』『銀の匙 Silver Spoon』と割と一般ウケするような映画もありますが、

今回の映画は『純喫茶磯辺』『さんかく』のように、考えさせて苦しくなるような不思議な魅力のある映画になっています。

そしてこれだけはあらかじめ言っておきますね。
女性が観るのは要注意です!!
森田剛さんは素晴らしい演技をしますが、彼目当てだけで観たらトラウマになりかねません!

以下の記事にある通り、監督は『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で関ジャニ∞の安田章大さん、『銀の匙 Silver Spoon』でSexy Zoneの中島健人さんとジャニーズを出演させています。
しかも、どれも客寄せパンダのようなジャニーズの使い方では決してなく、身体を張った、観るものを大満足させるクオリティの演技を魅せてくれます。

参照:童貞描写が巧い監督は実はジャニーズが好き 吉田恵輔インタビュー

一言感想を書くと、、、、

とにかく怖い!すごい!

衝撃的すぎます

正直ここまでとは思いませんでした。映画館を出た後も鳥肌が止まりませんでした。
私が観た回ではエンドロール中も誰一人席を立たなかったです。いや立てなかったのかもしれません。そのくらいの衝撃です。
劇場が明るくなったとき、友人同士で観に来ていた女性の方が泣きながら友人の方に話しかけていたのが印象的でした。

間違いなく傑作だけども、下手に人には勧められない。
こんな不思議な感覚になるのは稀
です!

前半はラブコメで笑えて性的にドキドキしてしまう展開なのに、後半はそれと両立しながらも恐怖に怯え、その暴力描写に極端に嫌悪感を覚えます。
こんなに恐ろしい暴力シーンがあるのに、コメディ部分が両立しているのが不思議なのです。

その前半と後半への橋渡し的に入る、タイトルクレジットの入り方がすごい!!

言っちゃあれなのですが、かっこいい。掠れたHimeanoleという文字が不気味に浮かび上がってくる。
他人の至高の一時を蔑んでみる男のバック。ここから日常が壊れていくと、観る人をぞわっと鳥肌を立てるのです。

享楽殺人者の理解できない行動。リアルで目を覆い被したくなる程の暴力シーンの数々。よって半端な気持ちでは観ることはおすすめしません。途中で立ちたくなる気持ちも分からないでもないです。けれども、これほどまでの衝撃を覚える映画はそうそうありません。

映画ファンは間違いなく必須の映画だと思います。

基本的にいや〜な映画であるので、おすすめしづらいというのはあるのですが、
ご興味あれば、是非暗い劇場でこそ見てほしい映画でした。

、、、、
ということでバイオレンス描写に耐性があり興味を持った方は、あまり予備知識なくとりあえず見てほしいのですが、
以下ネタバレありで感想を書きます。

清掃のバイトで働く岡田くん(濱田岳)は、何も目標を持たずダラダラと過ごす人生に漠然とした不安を持っています。
底辺で生きている自覚があるからこそ、何かに過度に期待せず、将来を考えているということである程度の心の平穏を保とうと努力しているという男。

そんな彼は、職場の先輩安藤(ムロツヨシ)さんに自分と同じような匂いを感じ、その想い(将来に対して漠然とした不安がないか?)を聞きます。
安藤さんは、岡田くんとは違うということをはっきりと主張しながら「人は不満不平を埋めるために、それを原動力にして生きているんじゃないか」と岡田くんに返すのです。

ムロツヨシ演じる安藤さんが本当に良いキャラで、明らかに”やばい”人なんですよね。近寄りたくないオーラが出まくっています。言っていることもかなり”キモい”。
まさにストーカー的な存在なのです。(監督は本当に絶妙に”いたい””やばい”キャラ描くの上手ですよね)

そんな自身をピュアと称する安藤さんは、カフェのバイトをしている女の子ユカ(佐津川愛美)が好きで、岡田くんに彼女に彼氏がいるのかどうかなどお願いしたりします。
安藤さんは、本当に人を殺しかねないような印象を受けますが、森田とは一線を越える”何かが”ある気がします

森田が本当に怖いのは、自分がいじめられたことに対しての”復讐心”で動いていないことにあると思います。実は原作では、森田は生まれつきの反社会性人格障害者として描かれているみたいです。

参照:現在進行中の黒歴史 : 映画「ヒメアノ~ル」なんですが

つまり、中学生の時のあの壮絶ないじめという経験があったから、人格が破壊されたというわけではなく、先天的に”普通ではない”人間という設定だったのです。
けれども吉田恵輔監督は、どんな人間でも少なからず”人間の愛”を信じられるような救いのある物語として描きたいために、あえてあのいじめがあったから森田は変わったという見え方に改変しています。

「ヒメアノ~ル」特集 映画監督・吉田恵輔インタビュー (1/3) – コミックナタリー Power Push

だから、今回の映画も、原作の核が薄らいでいるのかもしれませんが、私はとっても納得のいくストーリーだと思いました。
人が人を殺すことでエクスタシーを感じるなんてやっぱり信じたくありません。壮絶な消え去れないトラウマがあったから、それが許せるとも思いません。

やっぱり人間としてどこかに”良心”があるって思いたいじゃないですか?

もしかしたら、それこそが人間の考えるエゴなのかもしれません。
数ある動物の中でも人間だけが、生き残るため以外の理由で他者の存在を消す行為をします。
野蛮で、利己的でわがままな動物だけれども、人に優しくされることで生まれる利他的な行為が生まれるのも人間

人の優しさに触れることなく、生きてきたなんて悲しすぎるじゃないですか??

ラストで警察から逃走するために車を奪い、その運転手を躊躇なく轢いた森田が、目の前に現れたおじさんと白い犬を避けて壁にぶつかったシーンを見て救われた想いがしました。

当時、森田と岡田くんは確かに友達同士だったのです。その生活の中に当然家族もいて、飼っている犬もいた。生を殺めることに対して何の感情も起きないのであれば、最後に犬を轢いても良かったはず。それが本能的にできなかったことが、少しでも森田に人間性があることを意味するのではないでしょうか。

森田は中学生以降、人の優しさに触れることがなく、人の”負”の部分しか信じられなくなり、人間的な成長が完全に思春期の頃から止まってしまったのだと考えると何だか腑に落ちます。

森田が事あるごとに誰でも分かるような見え透いた嘘をつくシーンや、タバコを路上で吸っていておじさんに注意されたのに対し何度も「いやもう吸ってないですから」と連呼する所からも彼の精神的な”幼稚さ”がわかります。(そういえば、森田と岡田くんが久しぶりに会ったときの「あ、岡田くん」と言う森田の声が非常に子どもっぽいところが良いです。顔からしてもっと怖い声が出るのかと思ったら、あの普通のあどけない声に呆気にとられます)

安藤さんと森田は、似て非なる点がそこにあるんじゃないかって思います。

どんなに底辺にいたとしても、人生に諦めを感じようと思わない安藤さん。
自分の親友がまさか自分が好きな女性のことを好きになるとは考えない友情を重んじる安藤さん。
何回断られても、きっといつかは自分の気持ちを理解してくれると真実の愛を信じて疑わない安藤さん。

森田は、「人生終わってんだよ。何も持ってないやつが底辺から抜け出すことはないんだ」と達観しています。
何も信じないし、誰も信じない。自分をも信じない。友情だって、愛情だって、夢や希望さえも。

森田がどんな風に思っていたのかは分かりませんし、理解もできないかと思います。
恐らく、誰も信じることができず、誰に対しても心を開けなく閉ざされてしまい、感情の起伏がなくなってしまったんだと思います。
泣いたり、怒ったり、不安に思ったりもせず、ただただその時感じたことを衝動的に生きている。

森田も安藤さんもどちらも”あぶない”やつですが、最後まで友達に対して傷をつけることなく、自分が傷ついてもファイティングポーズを取る安藤さんの見方は変わりました。
安藤さん、やっぱり最後の最後で助かって良かったなって。(股間打たれるのは辛すぎですけどね。)

森田と安藤さんという理解できない人へのほんの少しの理解という意味で、この映画を見て良かったと感じました。

「ヒメアノ~ル」とはヒメトカゲという小型のトカゲのこと。
獰猛な小動物のエサです。強者の餌となる弱者。

本当の弱者ってなんだろうって思います。

人の心を考えて行動する事ができる人が真の”強者”ではないでしょうか。つまりそれができないのが本当の弱者。人の心に寄り添う事ができないまま、成長が止まってしまった森田を見て、何ともいえない気持ちにさせられました。

あ、岡田くんとユカちゃんとの恋愛とその発展は、濱田岳さんと佐津川愛美さんの演技が素晴らしすぎるので良かったですね。
童貞臭漂う岡田くん、そして男心をくすぐるけれど表に出さないいや〜な気持ちにさせるユカちゃん最高ですね。女性に清廉潔白を求めるのなんて男性側のエゴにすぎません。

参照:「ヒロインはかわいい人がやると思ってた」佐津川愛美の“自信の埋め方”

読んで頂いて、ありがとうございます。

●参照

(C)2016「ヒメアノ〜ル」製作委員会

○予告

○公式サイト
映画『ヒメアノ~ル』 | 大ヒット上映中!

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